△BACK△
「君飼い」



兄は云う

この井戸を掘り返してなるものか、

と。





野井戸はけして深くなく、

雨水が満ちているのだが。




野井戸はすでに開かれて、

月が泳いでいるのだか。





兄は何度も

この井戸を掘り返して
なるものか

と。





兄は何度も

この井戸を掘り返して
なるものか

と。






兄は手紙をだしたのらしいが

それは君飼いの硬い切手を貼られて

かえってきたので





兄はそれを嫋々と溢れそうな野井戸に埋めようとするがそれは埋まるはずもなく浮かび溢れ浮かび溢れ浮かび溢れ浮かび溢れ月は揺れ揺れ揺れ揺れ、戻り戻り。
嫋々。
それでも
兄は云う。この井戸を掘り返してなるものか と。







「兄とは昔よく飴を交換したのです。
 兄は菊が嫌いでしたので
 それはもう嫌いでしたので
 黄色い飴を交換したのです
 あげるよ、と兄が云い
 ありがとう、とあたしが
 ああ
 ああ」






君飼いの硬い切手は

マリア像の水色をしており。

菊の匂いが水と混ざり。

消え。





あとは

噎せるばかりの白濁が

いつも兄を汚し汚されており。





兄は抱え。


この井戸を掘り返してなるものか


と。


嫋々。


とそれは溢れ。






















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